これまで3回にわたって、ものが「転がる」仕組みを説明してきました(1回目・2回目・3回目)。どんなものにも「重力」という下向きの力がかかりますが、床や地面の上に置くと「抗力」という力が上向きに働きます。このとき、重力の真下から抗力が支えている場合は転がりませんが、重力と抗力の線がずれてしまうと、回転してしまう(転がってしまう)のでしたね。
ところで、「転ぶ」と「転がる」は同じ漢字を使いますね。もしかすると関係があるのでは・・・と思った方は大変鋭いです。その通りです。今月は「転ぶ原理」に注目してみましょう。
転ぶシーンを想像しましょう
「転ぶ」というと、どういう姿を思い浮かべますか?何かにつまずいて前のめりになっているか、足を滑らせてのけぞっているか、どちらかではないでしょうか。では、それぞれの場合について、重力と抗力の矢印を描いて考えてみましょう。
まず、普通に立っている場合は、重心の真下に足がありますので、図Aのように重力と抗力の線が重なります(抗力は床に触れている足の部分にかかるということを忘れないでください)。ですから、重力を抗力が支えてくれるので、転びません。
前のめりになっている場合はどうでしょう。重心が足よりずっと前の方にありますから、図Bのように重力と抗力がずれてしまい、前方に回転してしまうことが分かります。これが「転ぶ」ということなのです。
ではのけぞっている場合は・・・もうお分かりですね。重心が足よりずっと後ろの方にありますから、図Cのように、後方に回転してしまいます。すなわち後ろ向きに転んでしまうのです。
要するに、体の重心の真下を足で支えれば転ばない、ということですね。でも、なんかこんな風になってるヒト、見たことありません?どうなってるんでしょう?
マイケル・ジャクソンらによる特許
上で示したイラストは、マイケル・ジャクソンの”Smooth Criminal”という曲中でのパフォーマンスを念頭に置いて描いています。これは「ゼロ・グラビティ」と呼ばれているようです(ちなみに「グラビティ」とは「重力」という意味です)。ご存じない方は、googleなどで”smooth criminal”とか”ゼロ・グラビティ”検索してみると、いろいろ出てきますよ。
↑7分あたりからかな?
こんな風に、体が前にえらく傾いているのに転ばないためには、何らかの仕掛けがどうしても必要になります(筋力を鍛えただけではどうしようもありません)。かかとが浮かないように地面にしばりつけるか、もしくはおなかのあたりを引っ張り上げるか。
「ゼロ・グラビティ」の場合は、靴に仕掛けがあって、ステージから出てきたフックに靴のかかとを引っかけて、かかとを下向きに引っ張るようになっているようです。なんとマイケル・ジャクソン本人(!)によって1993年に特許が取られていました。こちらで全文を読むことができます。
特許の最初の方を読んでみたところでは、これまでにもこういう「自力では立てないほどの前傾」をサポートするための仕掛けはいくつかあったようです。でも、腰にワイヤーを巻くだとか、靴をレールに固定する(宇宙飛行士が無重力空間で作業をする際、この手法を用いるのだとか?)などといった大仰なものばかりで、自由なダンスとの両立が難しかったようですね。この特許の仕掛けは、ダンサーが自由に動き回りつつ、予めフックを仕込んだ場所に移動すればすぐに前傾できるという点で優れていたのでしょうね。
あ、こんなことをやってるヒトを見つけました。
空き缶シリーズへのリンク
【1】空き缶が転がらない|【2】続・空き缶が転がらない|【3】一旦まとめ|【4】転がる=転ぶ?|【5】空き缶が倒れない
出典
この記事はちゅーピー子ども新聞 2010年11月号(11月1日発行)10面に掲載した記事を加筆修正したものです。
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