おかえり はやぶさ

おかえり はやぶさ

「はやぶさ」に注目していた人にとっては、昨日(2010年6月13日)は興奮に満ちた1日だったのではないでしょうか。小惑星イトカワに向かった探査機「はやぶさ」は、無事地球に帰還し、最後の任務であるカプセル投下も終え、さらに地球の撮影までこなし、大気圏に突入して燃え尽きました。

また、カプセルから発せられた電波はすぐに地上班によってキャッチされ、1時間後にはヘリコプターから目視確認までなされたようですね。回収は翌日とのこと。

「はやぶさ」帰還記念講演会

広島県呉市では、大和ミュージアムにて「『はやぶさ』の帰還に願いをこめて」と題された講演会が行われました。と言っても、的川先生がスライドにつけたタイトルはシンプルに「はやぶさ」でした。

定員100名(公称)のイベントで、会場はほぼ満員でした。翌朝の中国新聞朝刊によると、250名が参加したとのことです。

講演は、計画段階の議論から打ち上げ交渉、イトカワへの道程、着陸と離陸、などの出来事を振り返りながら、公式ホームページなどでは意外と分かりにくい現場感覚に満ちた内容でした。いくつかの話題をご紹介します。

 

今日(6月13日)、「はやぶさ」が帰還するということは、この講演会をセッティングした当時には分かっていなかった。なんという偶然。

これはいきなり衝撃でしたね。言われてみれば・・・。偶然に感謝せねばなりません。

 

「はやぶさ」のコードネームMUSES-Cというのは、Mu Space Engineering Spacecraft、すなわち「ミューロケットで打ち上げる工学実験探査機」という意味である。最後の「-C」は、3機目ということ。

イトカワのかけらを持って帰ることも大切だが、「イオンエンジン」「自律航法」「地球スイングバイ」などの宇宙飛行技術の確立もまた重要な任務、とのことでした。仮にイトカワのかけらがカプセルに入っていなくても、ここまでの航行が成功したということは十分に素晴らしいことのようですね。

 

名前は当初「アトム」案が優勢だった。打ち上げ予定の2003年は「鉄腕アトム」が(設定上)誕生した年であり、自律行動するMUSES-Cのロボット的な側面はアトムを想起させるから。しかし「アトムだと原爆を連想する人もいるんじゃないか」という意見が出され・・・

補足しますと、日本の人工衛星や探査機は、開発途中はコードネームで呼ばれ、打ち上げに成功すると愛称というか名前をつける慣習があります(全部かどうか知りませんが、おおかたそうみたいです)。

的川先生も「アトム」派だったようですが、この意見も考慮に入れて、第2案の「はやぶさ」が当選したとのことです。上空から獲物めがけて舞い降り、またすぐ舞い上がるという隼の姿は、MUSES-Cの「小惑星に着陸してかけらを採取し、すぐ離陸する」というミッションに相応しい、ということでした。

 

スイングバイという加速方法は、「ひてん」という衛星で徹底的に練習を積んでいたので、自信があった。

JAXAの「ひてん」の解説を調べてみますと、なるほど月を利用したスイングバイを8回も行ったようですね。「ひてん」はMUSES-Aですから、2代前の衛星です。こういう技術の蓄積が次代に活かされているようです。

 

「はやぶさ」からの通信が途絶し、1ヶ月余り後に通信が回復したとき、「1ビット通信」という技術で状況の診断を行った。

どこかで聞いたなと思って調べてみると、火星探査機「のぞみ」の通信が途切れそうになったときに編み出された手法のようですね。ここには、「のぞみ」「はやぶさ」の両方の運用に関わった方からのメッセージがあります。

 

イトカワへの降下リハーサルを重ねるうち、現場の若いスタッフの習熟度がみるみるうちに上がり、ぎこちなかった手つきがなめらかになっていった。

現場に勝る教育はない、ということを強調されていました。

 

総じて、人間にスポットを当てた講演であったように思います。どんなに優れた機械があったとしても、それに命を吹き込むのは運用する人間である、というようなメッセージかなと思いながら拝聴いたしました。

「はやぶさ」の帰還

帰還については、たくさんの新聞やwebなどで情報が流れるでしょうから、現時点で印象に残っているサイトをいくつかご紹介するにとどめます。

  • 発熱しながら進むカプセルと、燃え尽きる「はやぶさ」の動画
    • 動画1 和歌山大学の皆さんが録画されたものです。2分57秒あたりから見られるとよいでしょう。映像では1つの流れ星のように見えますが、「あの前のがカプセル?」という音声が入っていますから、恐らく現地では2つに見えたのでしょうね。
    • 動画2 NASAが上空から撮影したらしい映像です。本当にNASAなのかよく分かりませんが、NHKのニュースでも同じような映像が流れていました。こちらは高精細で、バラバラになる「はやぶさ」と、まっすぐ進むカプセルが、それぞれくっきり映っています。

 

TVや新聞の報道よりも、twitterやUstream等の方が情報が早くて、時代が変わりつつあるのを感じた次第です。といっても、いくつかの誤情報も拡散していましたが・・・。

これから

カプセルにはイトカワのかけらは入っているのでしょうか?かけらは無理かもしれませんね。せめてイトカワのチリでも入っていれば。

・・・と2010年当時は書いたのですが、実際イトカワのサンプルは入っていて、そこから年代を特定したという論文が出ました!!!!論文が公表されたのが2018年8月なんですよね。こんなに時間がかかるのは、年代を測定する実験が非常に難しかったということを表していると思います。大阪大学・寺田健太郎教授のグループの成果発表をどうぞ。

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