実物周期表を買おうとした話

実物周期表を買おうとした話

周期表というのは皆さんご存知ですかね。この宇宙にある元素を表形式にまとめたものです。ちょうどこの記事を書いている2019年は国連とUNESCOによって「国際周期表年2019」と宣言されている年なんだそうです。メンデレーエフが元素の周期律を発見してからちょうど150年目にあたるのだそうです。

本家「国際周期表年2019」のウェブサイトはこちら。
https://iypt.jp/

そのためでしょうか、フェイスブックを閲覧しておりますと、頻繁に周期表の広告が入ってくるようになりました。後で述べる事情により一部画像を加工してあります。この時点で強く興味を持たれた方も必ず最後までお読みください。

見てください、アクリルで作られた周期表型の枠の中に、元素記号に対応した物質が入っているようです。これはかっこいい!!

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でも、お高いんでしょう?

実物が入った周期表というと、科学館なんかには結構置いてある印象です。私は今まで確か2回ぐらい(別々の科学館で)見たことがあるような気がします。どこだったか忘れましたが、都会ですよ都会。いいですね都会は色々な物があって。

そんな珍しい物を販売してくれるということですから、さぞかし高いのだろうと思ってリンク先に飛んでみますと、案外安いんです。

Lite Edition 79.97ドル

Pro Edition 99.95ドル

となっています。説明書きを読むと、元素の実物が入っているのはProの方です。しかもご丁寧に「定価189.95ドルを今だけ99.95ドルにディスカウント!」みたいな表記がしてあります。ほぼ半額ではありませんか。

さらに迷っていると画面に「10%ディスカウントコード」なんてものが表示されます。注文時にこれを入力すると更に安くなるというわけです。脳内麻薬がドバドバ出ますね。正直、「これは安いんじゃないか!?買いだ!」と思いました。

しかし「詐欺だ!」との声も

ここで動画の発信者へのリンクをクリックしてみると、レビューが10個程度ついているのですがいずれも「詐欺だ」というような内容なのです。こちらです。

https://www.facebook.com/Mad-Creations-397355054388676/

例えばこんなレビューがあります。当然「星1つ」です。

The item I bought from them was not what was advertised. It was fake with only pictures and not real elements. SCAM

日本語では「私が買った物は宣伝されていたものと違う。本物の元素ではなく写真が載っているだけの偽物だ。詐欺」ということになろうかと思います。

自分が購入した物を写真つきでレビューしている人もいて、確かにそれはアクリルの直方体に写真が貼り付けてあるだけの代物でした。

これを見た時点で「あ~こりゃインチキなんだろう」と判断して以後は考えるのをやめるのが賢明なのでしょうけど、私は実は「実物周期表」が結構ほしいのです。昔からほしいと思っていたのです。ですので少々諦めきれず、「もしかしてこのレビュワーはLite edition(これは本物ではなくモックアップだとサイトに明記されています)を勘違いして注文したのでは?」と思って判断を先延ばししました。

落ち着いて考えてみると・・・

こうなると果たして何を根拠にして判断すればいいのでしょうか。普段こういう悩みを持つことはありませんよね。例えばコンビニに行って「○○コーヒー」と書かれたボトルを見かけたら、味の良し悪しはさておきそれはコーヒーだろうという安心感はあるわけです。ですが今私が直面しているのは「実物の入った周期表」というラベルがついていながら、「本当にそこに実物が入っているのか甚だ怪しい」という商品なのです。

落ち着いて考えてみると、ポイントは以下の通りあるように思いました。

(1)そもそも100ドル(≒1万円)ぐらいで販売できるような原価なのか。元素の中にはすごく高価なものがあったりしないか。

(2)「放射性同位元素は含まれていない」とサイトにあるのは当然として、放射性でなくてもアクリルが破損して漏れだしてしまうと危険な元素はいろいろあると思うが、大丈夫なのか。

(3)アクリルと反応してしまう物質はないのか。何となくフッ素とか危ないような気もするが、どうなのか。

(4)水素あたりは、封入したと言いながらも結構なスピードで漏れていかないのか。

(5)ムービーを見ると水銀の箇所に銀色ではなく赤い物体が入っているようだが、これでいいのか。

こういった諸問題を解決した上で購入の是非を決めるべきかな!と思いました。

手っ取り早い値段の比較

高い元素というと、まぁ金は高そうですが、他にもレアメタルと呼ばれる元素の中には結構高価なものが混じってないかな?と思ったりするわけです。そういうのをどうやって調べればいいのか?と思っていたときに、別の解決方法を思いつきました。

「実物周期表」とググってみると、実はすでに製品版があるんだということを知りました。多分教育用(学校などで展示する用途)だと思いますが、例えばここにあります。

(1)科学のおみせ:サイボックス
http://www.scibox.jp/product/prod_detail1.php?catalog_no=L55-1014-02

●実物元素周期表 A2(ナリカ)
– 大きさ:約640×460×12mm(A2・台座付き)
– 元素標本は30元素
– 価格 ¥237,600(税込)

●実物元素周期表 A1(ナリカ)
– 大きさ:約965×690×12mm(A1・台座付き)
– 元素標本は30元素(A2版と同じ)
– 価格 ¥270,000(税込)

(2)科学雑誌ニュートン
https://www.facebook.com/NewtonScience/posts/1087150638040114/
https://www.tokyo-science.co.jp/topics/20161024.html

●71元素標本セット
– 特製の木製標本箱(66.5センチ×35.0センチ×7.0センチ)
– 価格は税込54万円らしい(現在は取扱いなし)

~~~

だいたいナリカのA2とニュートンが同じくらいのサイズですね。またナリカのA1は、大きさは大きいのでしょうが価格はそれほど上がっていません。まぁ展示物の大きさが大きいだけで、元素の量はあまり増やしていないのではないかと思います。となると、価格の違いは元素の種類の豊富さでだいぶ変わってくるのかな、と思えます。

今買おうかどうか迷っている周期表は83種類の元素を封入!という触れ込みですから、比較すべきはニュートンの方でしょう。

迷ってる周期表 200 x 125 x 25 mm
ニュートンの奴 665 x 350 x 70 mm

面積比 = (200 x 125) / (665 x 350) = 0.11 [11%]
体積比 = (200 x 125 x 25) / (665 x 350 x 70) = 0.038 [3.8%]

このようになります。ニュートンの奴は値段も高いですが確かに結構大きいみたいですね。それに対して今迷っている奴は小さいですね。

値段が面積に比例する場合と体積に比例する場合、それぞれ以下のように計算されます。

面積 → 54万円 x 0.11 ≒ 59,000円
体積 → 54万円 x 0.038 ≒ 21,000円

おお・・・何とも絶妙な桁に収まりました。今迷っている奴はPro Editionで約100ドル、つまり1万円ちょっとです。定価は189.95ドル、つまり約2万円です。値段が体積に比例すると考えれば、ニュートンプレスが販売していたものと同じような値段であると言えます。もっとも、半額に割り引いて大丈夫なのかという問題はありますが。

全く別の切り口の情報

物欲に血走った目で情報の海を泳いでおりますと、思わぬ情報が飛び込んでくるものです。今となってはどうやってここにたどり着いたのか分からないのですが、次のような製品です。Heritageというのは辞書で調べると「遺産」とか出てくるのですが、もしかして「標本」という意味ではないかな?と思っております。(後日、識者の方よりいただいたご意見をもとに表現し直しますと、恐らく「古来の」とか「元祖」みたいなもったいぶる意図でつけられた語かな、と思います。)

Heritage Periodic Table Display
https://www.engineeredlabs.com/product-page/the-heritage-periodic-table

●諸元を抜粋
83 Real elements cast in crystal clear acrylic
6″ x 4.5″ x 1″ (= 152 x 114 x 25 mm)
$179.40
Beware of $79 Scams

さっき上で迷っていたPro Editionよりさらに小柄ですね。それでありながら180ドル(約2万円)という強気な価格。ここで先ほどと同様に、ニュートンを基準として面積比・体積比で比例計算した値段を出してみましょう。

面積 → 54万円 x (152 x 114) / (665 x 350) ≒ 4.0万円
体積 → 54万円 x (152 x 114 x 25) / (665 x 350 x 70) ≒ 1.4万円

これは絶妙に179.40ドルという値段にふさわしい計算結果・・・!?

さらに諸元の最後にある「Beware of $79 Scams」(79ドルという詐欺にご注意)という文言。サイトの右の方にはさらに詳しく、こんなことが載っています。

There are at least three fraudulent companies – www.jinniestore.com and www.dscarf.com and www.chancecraft.com – that are advertising the Heritage Periodic Table for $79.00. These are credit card phishing scam websites that do not necessarily ship the product and we are not affiliated with the sites. These scam products often only pictures of the elements not actual samples. We apologize for any confusion. If you have purchased from these sites be vigilant about fraudulent purchases on your cards.

~~~~~~

日本語訳byわたくし: 少なくとも3つの詐欺企業があります – www.jinniestore.com and www.dscarf.com and www.chancecraft.com – です。これらはHeritage Periodic Tableを79.00ドルと広告しています。これらはクレジットカードのフィッシングサイトで、必ずしも製品が送られてくるとは限らず、また我々のサイトと提携していません。これらの詐欺製品はたいてい元素の写真だけで、実物を含みません。混乱を招いて申し訳ありません。もしあなたがこれらのサイトで買ってしまったならば、あなたのクレジットカードによる不正購入に注意してください。

これは上で迷っていたPro Editionの廉価版、Lite Edition(79.97ドル)のことを指しているでしょう、恐らく。私がLite Editionを見かけたのは、ここで詐欺企業として挙げられている3つのサイトのうちの一つでした。

注文した!

購入を決意しました。すでに注文済みです。

どっちをって?

それは・・・後から調べた179ドルの方を、です。

この判断を正当化する理由は、こんなところでしょうか。

(1)Pro Editionの99.95ドルというのは安すぎるんじゃないか。大きさからして適正価格は200ドルぐらいなのではないか。

(2)それに対してHeritage…の179.40ドルというのは結構適正な価格なのではないか。

(3)Heritage…のサイトからPro Editionのサイトに向けて「あれは詐欺です」という注意喚起があるが、逆はない。

(4)Pro Editionの宣伝をしている Mad Creations というFBページには15件程度の「詐欺だ」という声があり、賞賛のコメントはゼロ。

~~~

ここまでを読んでくださった方はどう思われますかね?私と同様に「そりゃそうだろう、Pro Editionは怪しい!」と思われる方が多いのではないかと思います。

ただ、この計算結果は「ニュートンプレスが54万円の製品を出した」ということに相当程度、立脚しているわけです。本来調べようと思っていた元素の危険性とか反応性といったことは全く手つかずです。もうほとんど「ニュートンプレス」という会社の名前で決めたようなもんです。いいのか?

しかも、話がややこしくなるので今まで黙っていましたが、実は注文したのは上記のような計算をする前なんです。注文した後で面積比や体積比で計算してみて、「おお案外いい線いってるんだな」と確認しただけであって、注文前にはニュートンプレスとの比較すらしていないわけです。

では購入前には一体何が決め手になったんでしょう?

Heritage…の方が値段が高いから?

Herigate…の方には「詐欺に注意」と書いてあって逆にはないから?

Pro Editionの方では、しばし迷っていたら10%ディスカウントのコードが表示されたから?

ああ、そういえば書き忘れていましたが、Amazonには中国企業と思われる出品者でPro Editionと同じに見えるものが出品されていました。5000円ぐらいでした。これのせいか?

といったような具合で、はなはだ自分の判断基準が怪しいなと思った次第です。ちょうど最近読んだ「新しい時代のお金の教科書」という本に「通貨の価値を成立させている『信用』とは何か」ということが書かれてあり、非常に勉強になるなぁと思ったのですが、それと通じるものがあるなと思いました。

実際にどんなものが届くのか、届かないのか。しばし待ちたいと思います。

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