天女が岩をなでたなら

天女が岩をなでたなら

前回の「けし粒はいつなくなる」に引き続き、「劫」とはどんな長さなのかを計算してみました。前回は「1辺20kmの城の中に詰め込んだけし粒を、100年に1粒ずつ取っていくと何年かかるか」という計算をして、「6,400,000,000,000,000,000,000,000年」という驚くべき値を得ました。

今回も大谷大学の「生活の中の仏教用語」を引用させていただき、「四十里四方の大石を、いわゆる天人の羽衣で百年に一度払い、その大きな石が摩滅して」なくなってしまうまでの時間を計算したいと思います。

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石を作っている原子

石といってもいろいろな種類がありますが、地上で一番ありふれているのは「火成岩」です。中学の理科の時間に「流紋岩・安山岩・玄武岩・花崗岩・閃緑岩・はんれい岩」の6種類を勉強することになっていると思います。マグマが冷えて固まってできた岩石です。

これらはケイ素を主成分として、その他いろいろな元素が混じってできています。原子の大きさは、以前「髪の毛には原子がぎっしり」では「直径0.1nm」としましたが、髪の毛を作っている主な原子(炭素や水素)に比べるとケイ素の方が2倍程度大きいようなので(例えばこちらを参照)、今回は「石を作っている原子の大きさは、直径0.2nm」とします。

「四十里四方の大石」とは?

「四十里四方」と聞くと、何となく「40里×40里」の正方形を思い浮かべてしまいますが、それでは「石」というよりもペラペラの紙みたいになってしまいますので、恐らく「40里×40里×40里」の立方体の石なのだろうと思います。

「里」の長さについては、前回同様、「1里=500m」と仮定します。

したがって、今回の「四十里四方の大石」とは、前回の城と同様に「1辺20kmの立方体」だと考えることにします。エベレストより高い石、ということになってしまいますが・・・。ちなみに太陽系最大の山は火星にある「オリンポス山」ですが、これは高さが25kmぐらいあります。これと比べれば低いですね。

大石の中に原子がぎっしり

「1辺20kmの大石(立方体)」の中に、原子がどのくらい詰まっているのかを考えましょう。原子はまるい感じの形ですが、やはり計算を簡単にするため、「原子=1辺0.2nmの立方体」だとします。

20km = 20,000m = 20,000,000mm = 20,000,000,000μm = 20,000,000,000,000nm

ですから、石の1辺に並ぶけし粒の個数は

20,000,000,000,000nm÷0.2nm = 100,000,000,000,000個

となります。1辺あたり100兆個(!)となります。すでに想像を絶します。

さて、計算の続きの準備のために、ちょっと「層」をイメージしてみましょう。つまり、100兆個×100兆個の原子でできた正方形のシートが100兆枚あって、層状に重なっているとイメージするのです。

天女が岩をなでると

さて、この岩を「天人の羽衣」でなでて削っていくわけですが、果たして「ひとなで」で岩はどのくらい削れるものでしょうか?羽衣の材質、大きさ、なで方、いずれも全く分かりませんので、もう適当に仮定してしまいましょう。そこで、

「1回なでると、1平方メートルの範囲の原子が1層はがれる」

と仮定してみます(このために「層」のイメージをしたのです)。

20km×20kmの範囲の原子1層分の面積は、

20km×20km = 20,000m×20,000m = 400,000,000平方メートル

となります(4億平方メートル!)。ですから、1平方メートルずつ原子がはがれるとすると、この1層の原子が全てはがれるまでに羽衣でなでる回数は、400,000,000回となります。4億回です。

 

この層が100兆枚あるわけですから、全ての原子がはがれてしまうまでに羽衣でなでる回数は、

4億×100兆 = 400,000,000×100,000,000,000,000

= 40,000,000,000,000,000,000,000回

と計算できます。「京」の次の位である「垓(がい)」を用いて、「400垓」回となります。

 

気が遠くなりそうですが、あと一息です。羽衣でなでるのは100年に1回ですから、全ての原子がはがれるまでにかかる時間は、

40,000,000,000,000,000,000,000×100 = 4,000,000,000,000,000,000,000,000年

となります。「垓」の次の「禾予(じょ)」を用いて「4禾予年」です。「劫」はこれよりも長いので、

劫 > 4,000,000,000,000,000,000,000,000年

となります。

ところで、けし粒のたとえと比べると

さて、一応計算が終わったところで、前回の「けし粒のたとえ」の結果と比べてみましょう。「方四十里の城に小さな芥子粒を満たして百年に一度、一粒ずつ取り去り、その芥子がすべて無く」なるまでの時間は、6禾予4000垓年でしたね。なんと、今回の「天人の羽衣」と1.5倍ぐらいしか違いません。

きわめておおざっぱな計算をして、かたやけし粒、かたや原子と全然違うものを扱ったのですが、出てきた答えがだいたい同じくらいに落ち着くというのは、非常に不思議な気がします。

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けし粒シリーズへのリンク

【1】けし粒はいつなくなる|【2】天女が岩をなでたなら|【3】けし粒と同じ個数の原子

参考

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