素数ものさしの支払いは

素数ものさしの支払いは

一つ前の記事の続編です。「素数ものさし」はとても面白いものですので、お持ちでない場合にはすぐにでも入手したいところでしょうが、残念ながら京都大学の生協でしか手に入りません。ですから遠くにお住まいの場合には、どうしても京都在住のお知り合いに頼るしかないわけです。その場合、送料込みで一体いくらお支払いするのが妥当でしょうか?という問題に対する一つの提案です。

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素数ものさしは577円

素数ものさしは、素数の目盛りしかない(ついでに、目盛りの個数も素数です!cmの方は7個、mmの方は41個!)というアイテムですので、当然のように価格も「577円」という素数になっています。

もし京都在住のお知り合いに購入を依頼したとして、その方が「送料80円」で送ってくださったとしますね。そうすると合計額は577+80=657円となりますが、657は素数ではありません(657=3×3×73)。ですから、657より大きい素数、例えば659円をお支払いするのが粋でしょうか?あっ!念のためですが「わざわざ足労させておいて2円しか上乗せしないとはドケチなのか」というのはナシですよ。その方面は別のことで労わせていただく、というのが前提です(例えば一緒に喫茶店に行ったときにおごるなど)。

話を戻しますが、私は実は「659円」はあまりおすすめしません。それよりも「661円」の方がいいのではないかと思っています。なぜかと言いますと・・・。

 

577ってどんな数

577という数字を見た直後に「あっ」と気づく方が、世界に2%ぐらいはいるのではないでしょうか。そう、実は577という数字は「2つの整数の平方の和で表せる数」なんですね。ちなみに「平方」というのは「2乗」という意味です。

  • 577 = 12 + 242

のようになるんですね。こういう数はそんなに珍しくなくて、例えばこんなのがあります。

  • 100 = 62 + 82
  • 1000 = 102 + 302

そうは言っても「577」を見てすぐ「あっ」て気づくわけないだろ!と思われた方もいらっしゃるかと思うのですが、この背後にはある定理が隠れています。それは次のような内容です。

「素数が2つの整数の平方の和で表される」ことは「その素数を4で割った余りが1になる」ことと同値である。

・・・なるべく簡潔に間違いのないように表現しようとして、少し堅苦しくなりました。少しくだけた書き方をすると次のようになります。

4で割った余りが1になるような素数は、必ず2つの整数の平方の和で表される。

また逆に、2つの整数の平方の和で表されるような素数は、必ず4で割った余りが1になる。

この定理の名前が分かるといいのですが、この分野に明るくなくて・・・(ご存じの方はぜひ教えてください!)。証明は結構難しいのですが、このpdfで読むことができます(このpdfは書き出しがとても面白いので、読めるところまででもお読みになることをおすすめします)。

(2014/11/14追記)親切な方に教えていただきました!この定理は「フェルマーの2平方の定理」というものだそうです。とりあえずwikipediaはコチラです。

(2014/5/4追記)ちなみにこの定理は素数でない数については何も述べていませんので、例えば「ある素数でない数を4で割った余りが1になる」ということと「その数が2つの整数の平方の和で表される」ことの関係については判断できません。例えば、上で述べた2つの例(100=62+82と1000=102+302)については、100と1000がそもそも素数ではないのでこの定理の守備範囲外です(実際、どちらの数も4で割りきれますが、2つの整数の平方の和で表されるわけです)。

 

ともかく、この定理を知っていれば、次のように考えることができます。「577は素数だ」「4で割ってみると、144余り1だ」「ということは、577は2つの整数の平方の和で表されるはずだ」と。そういう人が世界に2%ぐらいはいるのではないかな?と思った次第です。

 

577のヒミツはそれだけではなく!

実はまだ続きます!577を2乗してみますと(5772は332929です)、なんと次のようになることが分かります。電卓がお手元にあればぜひ検算をお願いします。

  • 5772 = 482 + 5752

こういう数の組み合わせ(48, 575, 577)は「ピタゴラス数」と呼ばれます(wikipediaはこちら)。これは小学校や中学校で少し習いますよね。例えば

  • 52 = 32 + 42
  • 132 = 52 + 122

あたりが有名ではないかと思います。もしかすると「直角三角形の三辺の長さになる整数」と言った方が分かりやすいかもしれませんね。「3,4,5の直角三角形」とか「5,12,13の直角三角形」という風に覚えた方もいらっしゃるのではと思いますが、577は「48,575,577の直角三角形」の斜辺になるわけです。実際に絵を描いてみると、こんな感じの細長い直角三角形になります。

 

ところで657は

ところで、送料込みの価格「657」も、実は「577」と同様に2つの整数の平方の和で表されるんですよ!

  • 657 = 92 + 242

ただし、6572はうまく2つの整数の平方の和にはならないようです。これは少々惜しいですね。

 

送料込みでいくらがいいか?

ここまでの話をまとめますと、素数ものさしの価格「577」と、送料込みの価格「657」について以下のことが分かりました。

  • 577は素数。
  • 577は2つの整数の平方の和で表せる(577 = 12 + 242)。
  • 5772も2つの整数の平方の和で表せる(5772 = 482 + 5752)。
  • 657は素数ではないので支払額としてはよろしくない。
  • ただし657は2つの整数の平方の和で表せる点(657 = 92 + 242)で、577と似ている。
  • 657より大きく、657に一番近い素数は「659」。

ここで「659」が「577」と同じように2つの整数の平方の和で表せたりすればいいのですが、残念ながらそうはならないんですね。659は素数ですが、4で割った余りが1ではないからです。また、6592も2つの整数の平方の和では表せないようです。

では、657より大きく、657に二番目に近い素数「661」はどうでしょうか?なんと!これはですね!

  • 661 = 62 + 252
  • 6612 = 3002 + 5892

という風になるのです。これなら「577円の素数ものさし+送料80円」への支払額として非常に妥当なのではないでしょうか?577と性質がピッタリ合いますし(素数で、2つの整数の平方の和で表せ、しかもピタゴラス数の一角になる)、本来の送料込みの価格「657」の性質(2つの整数の平方の和で表せる)も含まれています。

図で表すと以下のようになります(クリックすると大きな図になります)。

 

送料が異なる場合

送料が異なる場合は、なかなかこうはいかないんですよね。例えば送料が140円の場合は「577+140=717」円が本来の価格となりますが、717や7172は2つの整数の平方の和で表せないんですよね。ですから、「577と717の両方の性質をうまく持つ素数」を探すのが難しくなります。

 

結論!

素数ものさしを手に入れたいが、京都からちょっと遠いところに住んでいる・・・という方は、次のようにしてはいかがでしょうか。

  1. 京都在住のお知り合いに「購入+送料80円で送ってくれること」をお願いする。
  2. 届き次第、速やかに「661円」を送金する。
  3. なるべく早く会っておしゃべりする。

きっと、わざわざ「素数ものさしを買って送ってくださる」ようなお知り合いとであれば、おしゃべりも弾むのではないでしょうか?

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